プレスリリース

未知の海中音を、新たな観測対象へ――水中音響モニタリングの循環型フレームワーク「DGPU」を提唱

リリース発行企業:Biologging Solutions株式会社

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Biologging Solutions株式会社(本社:京都市北区、代表取締役:小泉拓也/野田琢嗣、以下「当社」)は、当社Logverse部門の野田琢嗣と小泉拓也による水中パッシブ音響モニタリングの研究成果が、国際学術誌『Scientific Reports』に2026年10月2日付でオンライン公開されたことをお知らせします。

水中マイクを使った長期観測では、生物の鳴き声、船舶音、波や雨など、膨大で多様な音が記録されます。海の環境は地域や季節によって異なり、同じ音源でも、水中での音の伝わり方や反射、周囲の雑音によって、録音される音の特徴が変わります。

さらに、水中では光が届きにくく、人が音の発生場所に行き、生物や物体を直接観察することも難しくなります。そのため、「どの生物や物体が、どのような状況で出した音なのか」という正解(真値)を人が確認することは容易ではありません。AIに音の正体を教えるための「正解ラベル」を付けられるデータは、録音全体の一部にとどまります。

多くの音響AIは、あらかじめ学習した種類の音を検出するよう設計されています。しかし、海にある音の種類と、その聞こえ方の変化を事前に網羅することは困難です。そのため、重要な音であっても、学習対象に含まれていなければ見逃したり、既知の音と取り違えたりする可能性があります。そこで本研究では、限られた正解ラベルを活用しながら、未知の音を新たな観測対象へつなげる仕組みが必要と考えました。

本研究では、AIがまだ学習していない音を「未知音」と捉え、次の4段階からなるDGPUフレームワーク(Detect・Group・Promote・Unionの頭文字)を提唱しました。

・抽出:未知音の候補を拾い出す
・集約:似た音をまとめる
・昇格:専門家の判定を経て新たな検出対象にする
・統合:実際の監視運用に組み込む

未知音の正体をAIだけで自動的に決めるのではなく、AIによる候補整理と専門家の知識を組み合わせ、観測対象を段階的に増やしていく考え方です。

DGPUを技術面で支えるのが「音響基盤モデル」です。音響基盤モデルとは、大量の音データから音の違いや共通点を捉える力をあらかじめ身につけた、いわば「AIの耳」です。

本研究では、海洋音に適応した音響基盤モデルを構築し、未知音候補の抽出や類似音の集約、少量のラベルからの検出器学習に活用しました。音響基盤モデルが捉えた音の特徴をもとに、既知の音とは異なる未知音の候補を自動で拾い出し、似た音をまとめます。

長時間観測では、AIの誤検出を人が確認する負担が実用性を左右します。そこで「統合」では、「昇格」で作った検出器を単独で使うか、既存の検出器と併用するかを、誤検出の上限を踏まえて決めます。「昇格」が検出器を作る段階、「統合」がそれを実際の監視で運用可能な形にする段階です。



図:DGPUフレームワークの概念図(Noda・Koizumi, 2026のFig. 1をもとに日本語化し、一部の表現を一般的な名称に改めたもの)。出典:https://doi.org/10.1038/s41598-026-73751-w / ライセンス:CC BY 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)

本研究のポイント
・既知の音だけを検出する仕組みから、AIにとって未知の音を次の観測対象へつなげる仕組みへ拡張しました。
・海洋音に適応した音響基盤モデルを構築し、未知音候補の抽出・集約と新しい検出器の学習に活用しました。
・未知音を見つけるだけでなく、専門家の判定を経て新たな検出対象にし、誤検出の上限を踏まえて監視運用へ組み込むまでを、一つの循環として整理しました。
・既存の水中録音データを用いた評価の一例では、約3分の1のラベル数で、全ラベルを使った場合の95%に相当する検出性能(再現率)に到達しました。

本研究では、既存の水中録音データを用いて、DGPUを構成する主要な段階を実装・評価しました。これにより、AIが未学習の音を、専門家の判断を介して継続的に観測対象へ取り込むための技術的な土台を示しました。

なお、DGPUに関連する技術について、当社は特許出願済みです。

本研究成果は、NEDO「SBIR推進プログラム」フェーズ1の採択課題「水中サウンドスケープ観測可能なバイオロギングによる生物多様性のマッピング」(課題番号:24000810-0)、およびこれに続く環境省「省庁連結型SBIR 環境保全研究費補助金(イノベーション創出のための環境スタートアップ研究開発支援事業)」フェーズ2(課題ID:25-R-03)に関連する研究開発の一環です。

想定される活用分野

DGPUは、対象とする音を最初からすべて定義することが難しい長期・大規模な水中音観測への応用が想定されます。
・海洋状況把握(MDA)
・海洋生物や生物多様性の長期モニタリング
・海洋環境の変化や、人間活動に伴う音の把握
・洋上風力発電や港湾開発における、水中騒音と海洋生態系の環境アセスメント
・海中設備・機器から生じる通常とは異なる音の候補収集
・大量に蓄積された水中録音の再解析と、見落とされていた音響イベントの探索
・既存の検出器では扱えない対象音について、限られたラベルから新しい検出器を構築する研究

これらの用途では、AIが音の意味を単独で決めるのではなく、それぞれの分野の専門家による判断と組み合わせることが重要です。DGPUは、音響AIと専門知識を継続的につなぎ、未知の音も観測対象に取り込みながら、海の変化を音から捉える「海の聴診器」としての役割を果たすことを目指しています。

論文情報
論文名:Discovery and promotion of unknown sounds into operational detection targets for underwater passive acoustic monitoring under false alarm constraints
著者:Takuji Noda, Takuya Koizumi
掲載誌:Scientific Reports
採択日:2026年9月24日
公開日:2026年10月2日(オンライン公開)
DOI:10.1038/s41598-026-73751-w
論文URL:https://doi.org/10.1038/s41598-026-73751-w

Biologging Solutions株式会社について
Biologging Solutions株式会社は、京都大学発のバイオロギング企業です。水中・陸上の野生動物を対象とする計測機器、AI解析、クラウドを一体で開発し、海洋音響による水中環境・生態系の可視化、洋上風力などの環境アセスメント、野生動物追跡・鳥獣害対策を提供しています。

本社:京都府京都市北区平野鳥居前町54-4 プログレス北野201
代表取締役:小泉拓也/野田琢嗣
事業内容:バイオロギング機器、水中音響AI、データ解析・可視化システムの開発・提供、野生動物追跡・鳥獣害対策
Webサイト:https://www.biologging-solutions.com/

本件に関するお問い合わせ先
Biologging Solutions株式会社
担当:野田琢嗣
E-mail:contact@biologging-solutions.com
URL:https://www.biologging-solutions.com/ja/contact