京の夏の風物詩「鴨川納涼床」が5月1日、始まった。この日は料亭旅館「幾松」(京都市中京区木屋町通御池上ル、TEL 075-231-1234)で行われる長刀鉾祇園囃子の初げいこが毎年恒例となっている。床は、カラオケはもちろん歌も踊りも楽曲の演奏も禁じられているが、この初げいこだけは例外。
納涼床の歴史は江戸時代にさかのぼるが、祇園囃子のけいこを床でするようになったのは戦後すぐのこと。長刀鉾保存会の関係者によると、五条近くの料理屋の息子が稚児になったことがきっかけで始まったという。20数人の囃子方と30人ほどの客が入る広さで、かつ地元の店がふさわしいとされており、幾松での演奏は10年ほどになる。この日も二人の舞妓が客を楽しませた。
近年は洋食や中華の店、スターバックスなども出店し、いすとテーブルの形式も少なくない。古くからの客は、床の風情が失われつつあると嘆く声もある。京都の伝統的文化であり、景観維持を図りたいところだが、店舗デザインとのバランス、新旧・和洋を考慮して、時代時代に合ったスタイルを容認してきている。
幾松の専務で、京都鴨川納涼床協同組合の理事長でもある久保昭彦さんは「別に『和』にこだわっているわけではない。和でも洋でも中でも、中身が伴わず1軒の評判が悪ければ、床全体の評判を落とす。ひいては京都の、日本の評判を落とす。伝統、文化の継承は基本に置きながら、いかにサービス、おもてなしを大事にするか。だから申請には厳しい条件を出している」と話す。一方で、「伝統、格式にこだわらず、鴨川を五感で楽しめる『床』のことをたくさんの人に伝えたい」とも。
今年4月に施行された「京都府鴨川条例」では、納涼床の景観について厳しい要求を出している。「来年は淘汰が進むかも知れない」と同理事長。いい意味での淘汰が進めば、京都の文化を正しく伝承できるかもしれない。今年の申請は92軒。店舗の情報は同組合のサイトで紹介されている。期間は9月末まで。