京都コンピューター学院(京都市南区)で10月21日、アプリ開発会社「アーティフィス」(大阪市)社長・長野年起さんによる、ARやVRの事例やゲームの手法をマーケティングに取り入れる「ゲーミフィケーション」をテーマとした講演が行われた。主催は京都府情報産業協会。
長野さんは、父子で楽しめるよう住宅展示場にAR技術でウルトラマンを登場させた事例をはじめ、商業施設などで用いられるOculus社のヘッドマウントディスプレーを使うハイエンドVRと、スマートフォンをはめ込む安価なゴーグルを使ったローエンドVRに事例が大別され、目的がそれぞれ異なることを解説した。
ゲーミフィケーションの事例としてオバマ大統領が大統領選で展開した「バラクオバマドットコム」を紹介。個人情報の記入、友人への紹介などの行動をポイント制にして、支持者同士を競わせるといった手法を取ることで対立候補マケイン氏はインターネット募金で0.75億ドルだったのに対し、オバマ氏は5億ドルを集めたという。
長野さんは同社の事例として、有田市との取り組みを紹介。従来、同市は、観光情報やミカンへの品質へのこだわりなどを冊子やDVDにして配布していたほか、一文字埋めるだけの簡単なクイズで懸賞をしていた。「これだと懸賞マニアや既に有田市や『有田みかん』に興味のある人にしかリーチできない。有田市のことを知らない人に向けてゲーミフィケーションを使った展開を行った」と話す。
長野さんは、有田みかん農園のシミュレーションゲーム「AR-ARITA」を開発。ゲームでは4週間を1カ月として12カ月でミカンを栽培。収穫したミカンはランク付けされる。最高品質の「有田クオリティ」を出すと、現実世界の有田クオリティのミカンが1箱送られてくる仕掛けだ。
有田クオリティを出すための難易度は高く、台風や害虫の被害や適切な時期の肥やり、摘果といった現実と同じ手入れを必要とする。ゲーム内コンテンツの電子書籍やムービーといった攻略情報が欠かせない。地域の祭りなどの「イベント」を発生させ、そこで手に入る「アイテム」も必要になる。プレーヤーは、ゲームを攻略するために自らミカン栽培の工夫や観光情報に触れることになり、有田市や有田みかんへの愛着が生まれていく。ゲームはおよそ30万ダウンロードされ、海産物をテーマとした第2弾も制作された。
「ただ作るだけではなく、課題を解決するための工夫が無ければいけない」と強調。「消費者としてゲームをプレーするのではなく、作り手の視点を持つことは大切」とエールを送った。
同学院2回生の加藤圭太郎さんは「ARやVR、MRの技術を学びたいと思って入学したので、長野さんの話を聞くことができてうれしかった」と話し、今後の技術活用について熱心に質問をしていた。