京都国立博物館(京都市東山区)が8月7日、曼殊院(まんしゅいん、左京区)から寄託を受けて修復中の国宝「不動明王像(黄不動)」に「御衣絹加持(みそぎぬかじ)」の痕跡が見つかったと発表した。
同寺の黄不動は12世紀に三井寺(園城寺・滋賀県)を手本にして描かれたとされるもので、横折れや彩色の剥落(はくらく)、のりが離れることにより絹の小口部分に「浮き」が見られたことから、2013年から文化庁補助事業として2年間の解体修理が行われた。
修復を担当する岡墨光堂社(中京区)主任技師の伊加田剛史さんが裏打ち紙をはがすと、不動明王のへその上にあたる部分に何らかの痕跡があることを発見。赤外線などで撮影すると、手のひら不動明王が浮かび上がった。像は全身が描かれており、衣の表現まで見ることができた。同館保存修理指導室長の大原嘉豊さんはこれを御衣絹加持の跡と判断した。
御衣絹加持とは、仏画を制作する前に絹などを清めるために香水(こうずい=清められた水)でこれから描く仏の姿を描くもので、現在でも仏画制作時に行われるという。御衣絹加持が行われていたことは天台密教に関する「阿娑縛抄(あさばしょう)」や平安後期の公家の日記「兵範記(へいはんき)」に記載があるものの、実際に加持の跡が見つかるのは「おそらく初めて」だという。
大原さんは「今回の発見は修理の歴史の中でもエポックなものになるのでは。仏画も『物』として見がちだが、御衣絹加持の跡が見つかったことで、信仰の対象であったことを忘れてはいけないと感じた」と話す。
同院の松景崇誓執行長は「黄不動は、玉体の安穏と天皇家の安寧を願うものとして当院に伝わっていただけに、こうした加持が行われていたと知り、やはりそうであったかという思い。ただただありがたいこと」と話していた。
黄不動は通常非公開だが、今秋同館で行われる「国宝展」で展示される。