立命館大学(京都市北区)木立研究室と「きものデザイン研究所ZONE」(東京都杉並区)が中心となって制作した伊藤若冲の作品をモチーフとした着物の展示が7月12日、京都文化博物館(中京区)で行われた。
プロジェクトでは、伊藤若冲の「雪芦鴛鴦図(せつろえんおうず)」を手描き友禅で、「葡萄(ぶどう)図」を型染め友禅でそれぞれ制作。実際に制作した32枚の型紙も展示したほか、制作の様子を映像に残している。
同大学の木立雅朗教授のゼミでは、これまでもさまざまな伝統産業の現状の記録を行ってきたほか、職人とのコラボレーションを実施。「そうした中で、戦前の友禅の柄が見つかった。非常に素晴らしく、学生たちも古いと感じるところか感激した」。どうにかこうした素晴らしい図案を後世につないでいきたいと考え、京都の着物メーカーなどに持っていく活動をしていた。あるときゼミ生にZONEについて知る学生がいたことをきっかけにして、実際に着物を作るプロジェクトが始まった。
ZONEでは、アパレル業界出身で代表の伊藤剛史さんら「プロデューサー」が、マーケティングを行い、企画をし、生地の開発、織元、下絵、糊置(のりおき)、染色、刺しゅうなどの工程の一つ一つから完成までを総合的にプロデュース。チームの「協業」として完成させる。複雑な分業制を取り、ユーザーの声が反映しにくい現状の生産体制と一線を画した「着物メーカー」を目指している。
そうして完成した訪問着は、若冲のコレクターのジョー・プライスさん、妻の悦子さんに若冲のデザイン使用の認定を得るためアメリカに持参。着物をはじめとした伝統産業を深く愛し、同時にその未来を心配しているジョーさんにプロジェクトを説明したところ、着物を羽織ってとても喜んでいたという。
「伝統は古いことではない」と木立教授。友禅の基礎を作った宮崎友禅斎も、友禅技法を発明したわけではなく、もともとあった技法を『面白いやないか』と着物に取り入れたもの。伝統は常に革新の連続。責任のあるものづくりができて、持続可能な伝統工芸に向けて挑戦ができたのは業界を知らない大学だからこそでは」と振り返る。
会場にはZONEの着物や反物のほか、池坊の高津倫子さんの3メートル近いいけばなの展示も行われた。