Impact Hub Kyoto(京都市上京区油小路中立売、TEL 075-417-0115)で3月4日、起業を目指す人を対象に、起業家が自らの経験を語る「起業家による起業家のためのStart up school」が行われた。
今回のスピーカーはインターネットで希望のデザイナーが生花のギフトを作り、相手に届けるサービス「Sakaseru(サカセル)」代表の小尾龍太郎さん。ボリュームが小さく、カタログのデザインしか選べず、花屋にとっても利益が薄いという既存のサービスの課題を解決したい、と切り出し、ここまでの歩みを「SNSに載せないで」という内容も含めて語った。
プログラマーとして初期のドワンゴなどで働いた小尾さんは、フリーになった後、ドワンゴの先輩から歌舞伎町の花屋の店主を紹介され、営業用のアプリを開発。これをきっかけに、店主と共に六本木に店を出し「花×IT」を使ったサービスの可能性を探るようになったという。
「ドワンゴの上場で味わった成功体験から、ちまちま花を売ることをばかにしていた。そんなことでうまくいくはずがないのに」と話す通り、店は経営は悪化。閉店の話も出たが、ベンチャービジネスを支援する「KDDI∞LABO(ムゲンラボ)」に応募し、採択されなければやめようと賭に出た。懇親会で紹介されたのが、後にメンターとなるアスクルの伊藤羊一さんだった。
背水の陣で臨んだ必死さが伝わり、数百もの中から支援事業に採択される。しかし、毎週行われるプレゼンテーションでは成功者に「ダメ出し」の嵐。ITには疎い共同経営者との役割分担に悩みながらも「Sakaseru」を立ち上げ、3カ月間を終えた。
「新サービスを紹介し、初日に400人との登録があり喜んだのもつかの間。売り上げが伸びず『悲しみの谷』に突き落とされた」と小尾さん。共同経営者から「1円でも高くSakaseruを売ろう」と言われ、業界の経営者に交渉へ行くが「愛着あるサービスをばかにされるとモヤモヤした気持ちになった」という。伊藤さんと相談し、共同経営者と別れ、1人で事業を続ける決意を固めた。
業績回復の突破口となったのは法人向けの営業だった。「祝い花の定番はコチョウランだが『マンネリ化していて本当は贈りたくない』という声があった。「会社に合わせたデザインができると提案すると非常に喜ばれた」と小尾さん。その後も大手からの出資が頓挫したり、ベンチャーキャピタルから辛辣(しんらつ)な言葉を掛けられたりしながらも、今年1月、ベンチャーキャピタルのインクルージョンジャパン(品川区)で資金調達に成功した。
小尾さんは「お客さんの一日を一生の思い出にしたい、花屋さんをハッピーにする、という思いが明確だったからこそ続けられている。皆さんも1日1ミリでもいいから前進していってほしい」と来場者にエールを送って締めくくった。
参加者の一人で、仲間と会社「サイレントボイス」を立ち上げたばかりの桜井夏樹さんは「聞くことの少ない起業の失敗談や小尾さんが体験した焦りや苦しみが肌で感じられた。自分の事業に対しても努力すべき基準が見えて良かった」と話していた。