立命館アート・リサーチセンター(京都市北区)で7月30日、講演会「デジタル技術が生み出す新たな文化効果」が行われた。主催は同センターと今年4月に新設された文学研究科文化情報学専修、凸版印刷(東京都文京区)。
同大の矢野桂司教授は、初めに今年復活した祇園祭の「大船鉾」のプロジェクトを紹介。同センターでは、大船鉾の絵図や残された懸想品などからCGを作成。完成した鉾の土台から、巡行のシミュレーションを行った。三条寺町の「かに道楽」前を大船鉾が巡行しているCG画像に、会場から思わず笑い声が漏れる場面も。
また、1605年に描かれたといわれる「誓願寺門前図屏風(びょうぶ)」の取り組みについても紹介。同作は、「洛中(らくちゅう)洛外(らくがい)図」に描かれているような雲が無く、空間のゆがみが少なく、狭い範囲を鳥瞰(ちょうかん)的に描いている特徴を持つ。同センターでは現在、描かれているものの位置関係と、1637年に作られた地図との比較を進めているという。来年3月に京都文化博物館(中京区)で行われる特別展に合わせて、データを公開する予定。
凸版印刷からは、バーチャルリアリティー(VR)で再現された「洛中洛外図 舟木本」や「北斎漫画」が紹介された。洛中洛外図は1扇につき18枚の写真を撮影しており、正しい色を出すためスペクトルで測定を行い、正確な再現に努めた。完成データはコントローラーを使って拡大することができ、約7ミリの人の顔をほぼ原寸大の大きさにまで拡大できるほどの解像度を持つという。
所蔵する東京国立博物館でも、作品の保護のため明るい光で見ることができず、年に3週間程度しか公開されない同作品。VRは、来場者の興味や属性に応じてテーマ変えて案内することができ、同館でも人気のコンテンツだという。同社文化事業推進本部長の佐伯敬太さんは、プロジェクトについて「今後も公開を念頭において、日本の原点を伝えていくことができれば」と話した。
イベントの終わりには、実際に参加者らが洛中洛外図や北斎漫画のVRを操作。高精細な画像や、自由に好きな箇所を簡単に見られることなどに驚きの声が上がっていた。