京都絞り工芸館(中京区油小路通御池南入ル、TEL 075-221-4252)で現在、葛飾北斎の「富嶽三十六景」を「京鹿の子(かのこ)絞り」で再現した作品を展示する展覧会「富嶽四十六景」が開催されている。
絞り染めは、布の一部を糸で縛るなどしたまま染料に浸し、染まらなかった部分が模様となる技法。この技法は長い歴史を持ち、古事記に中国の皇帝に献上した記録があるという。京鹿の子絞りは、京都の絞りの技法の総称。同館副館長の吉岡信昌さんは「絞りは仕組みが簡単であるため、絞りはいくらでも手間がかけられる」と話す。
同展では、葛飾北斎の「富嶽三十六景」とさらに追加して描かれた「裏富士」と呼ばれる10点を加えた全46点を再現。完成には約1年6カ月かかったという。「富嶽三十六景」を選んだのは「今年で北斎の生誕250年であると共に世界的にも有名な絵を通じて絞りの技術を広く知ってもらいたい」という思いがあったため。
「こうした形で残しておけば、昭和・平成の時代にこんな職人がいたという証になるはず」と吉岡さん。お気に入りの1枚は「神奈川沖波裏」。おけのふちを使う「おけ絞り」と呼ばれる技法で波の輪郭を描き、鹿の子絞りでしぶきの一つひとつを表現した。
「新しい染料などができたことによりこれまでになかった絞りの技法が生まれている」という。例えば、「信州諏訪湖」という作品は「がんこ絞り」と呼んでいる技法で松の幹のゴツゴツとした様子を表現した。これは「一度染めた染料を抜く」工程が含まれる。「江戸時代には染料を抜くなんて考えられないこと」と吉岡さん。
展示では、絞りの歴史や技法の解説を聞くことができる。これまでの展示では京都以外からの観光客のほか外国人も訪れている。「これがきっかけで絞りや着物の奥深さを知ってもらえれば」と期待を寄せる。
開館時間は9時~17時。8月2日・16日、9月1日・22日休館。入館料は500円。9月21日まで。