日本で唯一マンガ学部を持つ京都精華大学(左京区)で1月23日、シンポジウム「シャルリーエブド襲撃事件を考える-表現の自由とテロリズム」が行われた。
題材は、フランスの週刊誌「シャルリーエブド」が掲載したムハンマドの風刺画をきっかけに1月7日に同社に襲撃があり、9日に犯人が射殺された事件。オランド仏大統領が、「表現の自由への攻撃だ」と批判。これに呼応し、「JE SUIS CHARLIE(私はシャルリー)」をスローガンにフランス各地で大規模なデモが行われた。
会場には、前日にシンポジウムが決定したにも関わらず、およそ100人もの学生らが聴講し熱心にメモを取っていた。
新聞で風刺マンガを掲載していたマンガ学部の篠原ユキオさんは、国際的な漫画家の団体、FECOメンバーが描いた追悼作品を紹介。日本の風刺画として、天保の改革で禁止された産業が亡霊となって歌川國芳の浮世絵は、「判じ絵として楽しまれたのだろう」と話す。「『政治漫画は、政治家を馬鹿にすれば誰でも描ける。調べてからやるように』と学生には指導している。ヘイトではなく愛情を込めることで立場は違っても共感を得るなど、歩み寄りもあるのでは」と問いかけた。
2008年までフランス在住だったポピュラーカルチャー学部の安田昌弘さんは、同じフランス人でありながら、大きな隔たりがある状況を歌ったフランスのポップミュージックを紹介しつつ、事件の背景にはフランスの共和政の「理想と現実」があると指摘。その一例として、移民の失業率の問題に対し、米国のような「アファマーティブアクション」(街の黒人比率に応じて、企業に同じ比率になるよう黒人を雇用するよう定めること)は、「フランス国籍を持った人は平等に扱う」ため、憲法違反となることを挙げた。また事件後の展開について「一部のローカルな事件が、短期間で普遍的な「表現の自由」に対する暴力のように取り込まれていったことを疑問視した。
アフリカ・マリの出身で、イスラム教徒のウスビ・サコさんは、「イスラム教は、人々の生活に根付いた文化であり文明。芸術面においても展開しており、建築様式にも見ることができる」とモスク等の画像で紹介。「安田さんも指摘したフランスの共和制の矛盾、西洋で発達した近代化や経済中心主義によりアイデンティティークライシスに陥った人々が利用したのがイスラム教だったのでは」と見立てを披露した。「芸術が対立を生み出したことは残念。芸術を通じて対話を復活させることを大学の使命としてもらいたい」と締めくくった。