京都の観光地でこの秋から、海外からの観光客が自撮り棒を使って撮影する姿が多く見られるようになった。
「自撮り棒」とは、スマートフォンやデジタルカメラ(主にコンデジ)を棒に固定して、自分と景色を同時に撮影するためのツール。いわゆる「自撮り」用に使われ、「セルフィースティック」とも呼ばれる。三脚や一脚とは違い、地面に固定させず持ったまま撮影する。人に撮影してもらったかのような写真が撮れるのが特徴。
実際に、京都の観光地で自撮り棒はどの程度使われているのか、海外からの観光客が多い清水寺とその周辺で調べてみた。清水寺関係者によると、海外、特にアジアからの観光客が自撮り棒を使っていることは、早くから話題になっていたという。
最初に声をかけたのは、台湾からやってきたカップル。「藍牙」を使ってシャッターを押すのだと教えてくれた。藍牙とは何か、調べてみるとBluetoothのことだった。「藍(=青)」に「牙(=歯)」、言われてみると納得だ。どこで購入したのか聞くとネットオークションで、300円で落札したのだという。どうやって使うのか聞くと、2ショットの写真を撮ってくれた。フレームと被写体を確認しながら撮影できるため、一発できれいに撮影できた。フォルダーには各所で撮った2人の写真が続く。撮影を人に頼まなくていいので気軽に2ショットも量産しているようだ。
次に見つけたのは大阪からやってきた夫婦。20センチほどの棒が短く、Bluetooth非対応のため、カメラのセルフタイマー機能を使っているという。地元で、800円程度で購入したものだという。日本人にも自撮り棒は浸透し始めているようだ。後にヨドバシカメラ京都店で確認すると、レジ前のワゴンで、4,000円前後で販売していた。機能や価格帯にも幅があるようだ。
フィリピン出身の女性も1メートル近く伸長できる自撮り棒を持参していた。フィリピンで人気なのか聞いてみると「そうでもない」という返答。日本円で、およそ3,000円で購入したという。団体旅行中に仲良くなったウクライナやアルゼンチンの友人とポーズをきめていた。自撮り棒があれば「カメラマンやりますよ」という譲り合いもなくなりそうだ。
「自撮り棒」という割に、一人で行動している人が少ないことに気づいた。自国の日常では自分を撮影するために使い、旅行先では家族や仲間との写真を撮影しているものと思われる。このほかにも2組の海外からの観光客が使用しているのを見たが、人混みの割にあまり「多い」という印象は受けなかった。この日は雨のため、撮影をする人が少なかったのも影響しているかもしれない。
京都では、市が運営するwifiスポット、「KYOTO WiFi」の接続を簡略化し、設置個所を増やすなどネット環境が整備され、海外からの観光客もタイムラグ無しに撮影した写真をSNSなどでアップできるようになった。香港などのデモの様子がSNSを通じて世界に発信されたように、その速報性と拡散力がSNSの強みだ。先に見たとおり、記念撮影に使われることが多いので、爆発的な影響力は持たないだろうが、使い方によっては、京都の観光に変化を与える可能性もあるように感じた。
なお、混雑した場所での自撮り棒の使用は危険だ。現在、京都の寺社にはトラブルを避けるためにあらかじめ三脚の使用や、散策の妨げになる撮影を禁止する対策を講じるところもある。自撮り棒がこうした二の舞にならないよう自制を求めたい旨を付記しておく。